2023年1月4日

NHKスペシャル『未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件』をみて

投稿者: hi_sakamoto

2022年末、12月29日、30日に放映された、NHKスペシャル『未解決事件 File.09 松本清張と帝銀事件』は、最近にない力作だったと思います。

これは!と思い録画し、家族で見ていました。

「帝銀事件」というのは何となく聞いたことがあるなという程度だったのですが、冒頭から惹きつけられる展開でした。

戦後直後の1948年1月、帝国銀行椎名町支店(東京都豊島区)で起こった大量毒殺事件ですが、犯人とされた平沢貞通氏は、生涯獄中から無実を訴えつづけました。この事件に疑問をもった小説家・松本清張は真犯人は別にいると確信し、調べをすすめてノンフィクション小説で世に問う決意をします。その過程で圧力がかかったり、GHQによって捜査が妨害されるといった壁にぶつかっていきます。推理小説のようなドラマになっていました。松本清張の真実を追求する姿勢に、共感を持った人も多かったのではないでしょうか。

第二部は、捜査当局が、犯人は素人ではなく、毒物を多人数の人間に対して効果的に飲ませ、確実に死なせる知識・技術があるものだということを調べ上げていきます。そして、731部隊など毒物・細菌などの生物・化学兵器の製造や実験、スパイ・謀略作戦をする部隊(秘密戦組織)があったこと、そこでは、中国人などを人体実験で多数殺したたこと(当時はほとんど知られていなかったものですが)を突き止めていきます。当時GHQの関係者だった90代のアメリカ人も登場し、真実を語ります。戦犯として裁かれないようにしたいという当該軍事組織幹部と、日本の生物化学兵器の情報をソ連に渡したくないというGHQ側の利害が一致したため、秘密戦組織の関係者を絶対に犯人にさせないという道=平沢犯人説をつくり出すのです。

真犯人はだれかという点も興味があるのですが、今回の番組の大事な点は、平沢貞通氏を犯人にでっち上げたその背景へとメスをいれたところです。
戦後のアメリカによる日本社会の支配は、当初はポツダム宣言の実行=日本の民主化にありました。しかし、その後中国での社会主義革命や朝鮮戦争に向かう情勢の急激な変化をうけて、アメリカは日本を「反共の砦」として位置付けて、日本の再軍備へと支配政策を転回します。本来なら戦犯を完全に裁く必要があったのですが、日本を米国の属国として彼らの自由になる国として動かすうえで、戦犯たちの利用価値があったということです。
今回の事件を、翌1949年に連続して起きる下山・三鷹・松川事件などでアメリカの諜報部隊が深く関与していたこととも重ねて考えていくと、アメリカの対日支配に邪魔になるものはあらゆる手段で排除するという力が背後で大きく働いていたといえます。

今回のドラマで、詳細に語られた事実は、これまでのさまざまな研究でも明らかにされてきたそうですが、たまたま入手した山田朗著『帝銀事件と日本の秘密戦』(新日本出版社、2020年)では、事件の詳細を記した『甲斐捜査手記』を丁寧に紐解いて、事件の真相に迫っていく捜査当局の粘り強い努力が伝わってきます。日々刻々と真犯人に着実に迫っていく調査の迫力を感じながら読み進んでいくのでですが、最後に当該秘密戦組織の幹部とGHQの利害の一致によって平沢逮捕がでっち上げれられ、その追求に大きな壁が立ち塞がります。その瞬間、何とも言えない悔しさと戦慄を覚えました。

NOTE(2年ぶりに)読後感想的に書きました。こちらもどうぞ。