2023年11月24日

JRの逃げ得にはさせてはならないー城端線・氷見線問題「講演とシンポジウム」

投稿者: hi_sakamoto

23日「JR城端線・氷見線を考えるシンポジウム」が高岡市内で行われ参加してきました。

公共交通政策、経営学などの専門家である日大名誉教授の桜井徹さんが、城端線・氷見線のあいの風とやま鉄道への経営移管についての分析と見解を講演されました。

パワーポイントの資料は50ページに及ぶもので、今回の問題を根源的なところから学ぶ貴重なものでした。(一部をご紹介します)

最初に結論ですが、JRの経営責任を絶対に曖昧にすることはできず、今後仮に経営移管に向かうとしても、JRへの責任の取らせ方の検討がどうしても必要だという事を認識しました。

【大前提ですが、県は経営移管が「決定」したと説明しているのに、移管に当たってのさまざまな情報=移管後の赤字の補填のための基金はだれがどれだけ負担するのか、路線の鉄路駅舎等は購入なのか譲渡なのか、城端線の線路更新は幾らかかるのか、新型車両はどうするのか、等々にかかわる経費をふくむ内容が公式情報としてほとんど明らかにされていません。それなのに、「関係者(ステークホルダー)とは相談して理解を得られた」と説明していることは、全く納得いかない話です。一番の当事者である県民、市民に対して、移管のための情報をまともに提供せず、是非をふくむ判断を仰ぐこともやっていないのですから。一方で、各種首長や国会議員らが、「新型車両になる」「ICカードが導入できる」「城端線・氷見線直通化」など大風呂敷を広げ、素晴らしい未来がすぐ手に入るかのように夢を語っているのは、極めて不誠実な態度と言わざるをえません】

さて以下は、桜井徹さんがお話しされたこと、大事だなと思ったポイントです。

1987年に国鉄分割民営化が行われJRが発足。JR西日本は2002年に完全民営化しました。図19のグラフのように、完全民営化以後一気に外国法人(赤い棒)が増えていきます。これにより、高利益を上げ、高配当が求められるようになり、利益優先の経営に拍車がかるようになったというのです。そして、赤字路線については投資が抑制され、経営から撤退しようという力が働くことになります。

ちなみに、城端線のレールは1960年代の古い規格のまま今日まで更新されておらず、大変乗り心地が悪い路線なのです。「儲からない路線に投資するのは無駄だ」という経営姿勢によって生まれた深刻な実態です。今回のシンポジウムのパネラーである中崎栄一さん(元JR社員、高岡市)によると、城端線は「日本一古い線路」とのことです。

利用者の利便性向上への努力をしないで長年放置し、乗り心地が悪い路線となって一層客足を遠ざけ、結果として赤字を拡大した。JR西日本は自ら「負のスパイラル」を招いていたのです。「城端線は赤字で経営的に大変だ」という主張は、たいへん無責任なものと言わざるをえません。

桜井先生は、コロナ禍でJR西日本は経営が厳しいといっているが、そのコロナ禍にあっても株式への配当は続けていたことを指摘しています(図23)。さらに、株主の利益である株主総還元額(配当金総額+自己株式取得額)は、2018年〜20年の間の平均が3600億円であり、同時期に輸送密度2000人未満/日(廃線も含め路線のあり方を検討すべきとする基準)のJR西日本管内の17路線すべての年間赤字(平均)は2500億円です。「赤字路線が大変だ」と言いながら、株主にはそれを大きく上回る額の利益を還元しているということに注意をむけました。(表9)
ちなみに、城端線、氷見線ともに、輸送密度2000人以上であり、今すぐどうにかしなければならないという切羽詰まった路線ではない事を知っておく必要があります。城端氷見線よりももっと密度が低いところはたくさんあります。ローカル線に関する課題認識と情報開示について(JR西2022)

JR西日本の輸送密度の状況

これらは、住民・国民の足を守るという鉄道事業の公共性を無視した態度です。そもそも、国鉄分割民営化の際には、それぞれのJRが地方の路線の経営にも責任をもつということが約束だったのです。北陸新幹線開通に際して、並行在来線(北陸本線)の経営をJRから切り離したわけですが、それでも枝線である城端線・氷見線、高山線を切り離さなかったのは、JRの経営責任という観点が貫かれたからです。

こうしたJRの公共性を毀損するような無責任は態度を助長させてきたのは、自動車偏重の交通政策を推進してきた国の政策〜車がなければ生活できないという地域づくり、商圏づくり、大型店舗出店の規制緩和など〜と軌を一にするものであったことも、忘れるわけにはいきません。

桜井先生は、LRT化検討委員会が開始されたが、それは城端線、氷見線はできるだけ早く手放したかったというJR西日本側の思惑からであり、議事録にも、砺波市長や高岡市長がそのことを感じ取って受け止めた発言をしていることが記録されていることを紹介されました。JR西日本が先手をうって、これに呼応する形で県や各自治体首長がその気持ちを汲むという構図と言えます。

その後、国の法律改正が行われ、移管を含む経営の活性化計画(鉄道事業再構築実施計画の策定)を国に申請すれば「お得な」補助金が出ますという「呼び水」が示されることになるのです。JRとしては渡りに船ということでしょうし、県知事などはこの期に城端線・氷見線をJRの経営から引き取って県主導で諸課題を一気に進めることができるし、「レガシー」(中川県議の言葉)、つまり来年の県知事選にむけた大きな実績をつくるという、政治的な目的も果たすことができるということだと考えられます。

講演のあとシンポジウムも開かれた

JRは持参金付きで城端線・氷見線をあいの風に譲渡すべきである

桜井先生は、仮に経営移管がなされるとしても、次の点は重要だと強調されました。

すなわち、赤字路線である城端線・氷見線を「あいの風とやま鉄道」が引き取るにしても、ただで引き取るわけにはいかないのだ。財政学的にみると、赤字のものを引き取る際は「持参金付き」で譲渡するのが常識である、と。無償譲渡というのはあり得ない話で、JRからきちんとお金を出してもらわないと帳尻があわないというわけです。

その際のJRからの資金の拠出のやり方は、いろいろあるでしょう。今後経営安定化基金(=沿線4自治体が城端線・氷見線の赤字を補填するために拠出するお金)にたいして、JRも当事者として基金拠出の主体になるということも選択肢としてあるのではないか、との提案でした。(城端線・氷見線の年間赤字は約3〜4億円とみられています)

今回の講演や質疑を通じて感じたのは、国の姿勢、つまり公共交通政策、特に鉄路を国民の移動の権利を保障する必要不可欠のインフラとして位置付け、これらを守り発展させるという姿勢が極めて弱いことです。JRの利益を優先しツケは周辺自治体に押し付けるという構図になっているということなのです。

あらためて結論的に言いますと、

国は、自動車偏重の公共交通政策を抜本的にあらため、鉄路を国民の足として守り発展させる責任がある。

富山県は、JRに対し堂々とその責任をはたさせる、毅然とした態度が必要。

 

下記は、桜井先生のパワポ資料の結論「むすびに代えて」です。