2020年12月31日

エコカーもいいが、自動車をどう減らすかがより重要では③

投稿者: hi_sakamoto

地球の存続かけたCO2排出規制に対し、日本の自動車メーカーや関連産業は猛反発するが

車を減らすという政策は、自動車メーカーや自動車関連産業にとっては迷惑な政策です。これらの業界からの猛反発は必至です。

自動車メーカーは利益を上げるために自動車をたくさん作って、たくさん売らなければならないのですから、もうけの源泉である自動車の台数を減らそうという政策は生死に関わる問題です。それは、成長産業から斜陽産業へと転落する可能性も含んでおり、恐れるのは当然です。

この点でちょっと考えさせられる報道がありましたので、以下に紹介します。菅政権が打ち出した2030年代半ばにガソリン車をゼロにする方針に反発し、日本自動車工業会会長(トヨタ自動車会長)が、“そんなことをしたら日本の自動車業界は崩壊する”などと文句を言っていることを報じたものです。

20201218「毎日新聞」

20201218「毎日新聞」はトヨタ社長がガソリン車ゼロ目標で自動車業界は崩壊すると主張

しかしこれは自動車産業をいじめようということではなくて、地球とこれからの人類の未来がかかった大問題である気候変動対策を、日本社会として進んでいこうとする産業政策の大道なのです。いわば一企業の利益を超越する地球的規模の要求なのです。冷酷のように見えますが、客観的にみて企業はそれにどう対応し、その中で利益をあげられるような会社組織へといかに脱皮するかが問われているという話ではないでしょうか。トヨタが「それは無理だ」と言っている間に、別の自動車資本が「トヨタさん、無理なさらずにどうぞ撤退ください。わが社がEVやFCVの開発に頑張りますから」と参入してくるのですよ

厳しい条件は「成長の制約ではない」(菅首相)は正しい

資本主義というのは常に個々の資本に生死をかけた競争を強いるのです。その熾烈な競争によって、良し悪しは別として巨大な技術進歩を実現してきたのです。個々の企業は、生産性向上・新技術開発の独自努力をし、時には権力と癒着しながら利益誘導的政策を実行させ、利益の確保と規模拡大をすすめてきたのです。つまり、競争があるからこそ成長するのです。

温暖化ガス排出を急速に減らすことが人類の至上命題となった今、ガソリン車(内燃自動車)からEVやFCVへの急速な移行、カーシェアリング(ライドシェア)や公共交通機関の比重の高度化による自動車販売台数の減少も必然といえます。先見性ある自動車企業なら、車が売れなくなることなど、とっくの昔に計算に入れていることでしょう。20年30年を見越した経営ができる企業こそ、この時代に生き残り、また必要とされるのではないでしょうか。

ちなみに、フェイスブックでつぶやいたのは以下。競争的な条件の中でこそ企業努力が行われ、一層の成長があるという点を述べています。マルクスの時代にも「労働時間を短縮すると会社は倒産する」と反対したものの、実際に労働時間が規制されていく過程で企業努力が強められ、むしろその方が生産力を高め、産業構造を強化したという事例を紹介しています。(『資本論』第1巻)

世界では気候変動対策(2100年に気温上昇を産業革命時から1・5度以内に抑える)のために、2030年に温暖化ガスを半減、2050年に実質ゼロにすることを目指し、積極的な目標をかかげています。
どの国でも目標達成に向けて、産業界の反発をうけつ…

坂本 洋史さんの投稿 2020年12月20日日曜日

さらに、12月25日の菅首相記者会見では、このトヨタ社長(自動車工業会会長)の「ガソリン車をなくせば、日本の自動車業界は崩壊する」発言についてどう考えるかと記者から聞かれた菅首相は、厳しい条件は「成長の制約ではない」とキッパリと回答しています。これは、菅首相のコメントが正しいのです。(動画の47分37秒からの質問と回答に注目)

【記者の質問】

ウォール・ストリート・ジャーナルのランダースと申します。

先ほどグリーン戦略のお話があったと思いますけれども、今日の発表では、2030年代の半ば頃までに全ての新車を電動車にすると。ガソリン車は駄目だということで、新しい発表があったように思いますけれども、この前、自動車工業会の豊田会長が、急に電気自動車、EV(電気自動車)にシフトしてしまうと、自動車産業のビジネスモデルが崩壊するのではないかと懸念を示していると思いますが、総理は自動車業界のビジネスモデルが崩壊するという懸念に対してどのようにお考えですか。

【菅総理の回答】

私も新聞報道で自動車工業会の豊田会長の記事を読みました。それで私自身、確認をしました。御指摘の場では、むしろ、菅総理がカーボンニュートラルを政策の柱としたことは、自動車業界にとって大変ありがたい、今後全力でチャレンジしていく、自動車工業会の決定をしたと述べていると私は承知しております。ですから、私自身は050年のこのカーボンニュートラルを実現するというのは、正に成長の制約ではなくて、成長戦略として取り組んでいくべきであり、経済と環境の好循環を生み出す、こういう方向で進めていきたい、こう思います。

成長の努力から逃げる企業、そこに忖度する政府与党ー根源は企業献金

トヨタ社長がこのように政府の政策にイチャモンをつけられるのは、「毎日新聞」11月28日付(以下画像)のように、自動車産業が自民党に対して毎年莫大な企業献金を注入しているからです。記事によると、2019年の自民党への企業献金は24億2000万円だそうですが、そのうち自動車会社関連の献金合計(自動車工業会と、献金2千万円以上個別企業=トヨタ、日産、ホンダ、日野自動車)が2億2860万円と、全体の約1割も占めているのです(ピンク色の枠と●印)。前出の「毎日」12月11日付が報じたところによると、日本鉄鋼連盟橋本英二会長(日本製鉄社長)が“温室効果ガスを2050年まで実質ゼロにするのは不可能だ”などと主張しているのですが、同連盟は6000万円を、同社は2700万円を自民党に献金しているのです(緑色の枠と●印)。日本財界の総本山「経団連」の中西宏明会長が率いるのは日立製作所ですが、同社は5000万円を自民党に献金しています(緑色の枠と●印)。自民と財界がズブズブの関係にあり、財界の側は「献金していることを忘れるなよ」というメッセージを送りつづけているのです。

自民党は産業界から多額の献金を受けており、産業政策はその影響を多分にうける

近視眼的な利益優先の産業が気候変動対策の足を引っ張る

12月11日の「北陸中日新聞」では、炭素税を導入することが世界の潮流となる中で、日本ではそれがなかなか進まない背景が解説されています。つまり、世界では、これまでの“所有”に対する課税から、自動車を利用(走行)し温暖化ガスの排出量に比例して課税する方向へと向かっているのですが、これに日本の産業界は抵抗しているのです。そして日本政府や自民党がそれに忖度をしており、世界の潮流から「乗り遅れ」てしまっていると報じられています。

自動車産業界の自民党への献金が、環境重視税制への移行を阻んでいる

「自動車を減らす」ことは避けることのできない流れです。その新たな社会構造に対応した税制へのシフトも不可避なのです。しかし自動車産業界がそれに抵抗するのは、所有を前提とする社会のあり方=クルマが交通、移動、運輸の中心にすえられた社会ままで変わらず、できるだけ多く車を販売し続け、利益を得続けたいからです。日本の産業界は近視眼的な利益を優先し、企業献金を通じて政府・自民党と癒着するという共依存関係にあるのです。そのしわ寄せは国民と地球環境へもたらされることになっていると言えます。

(さらに長くなったので、次につづく)